大学や公官庁、民間の研究所などの研究機関に向けて、理科学機器や分析・計測・試験装置、研究施設などの開発・製造・販売を行うヤマト科学株式会社。
創業から136年という長い歴史を持つ同社は、2019年に静岡市丸子の工場を子会社化、2024年7月に静岡市に工場を新設、製造の拠点を移しました。
新工場を設ける際に、どのようなハードルがあったのでしょうか?
また、そのハードルを越えるにあたり、静岡市からどのようなサポートがあったのでしょうか?
取締役常務執行役員松下様、上級顧問シニアアドバイザー吉永様、Yamato Mirai Factory Shizuoka工場長岩本様に伺いました。
目次
環境配慮と最先端技術を併せ持つ静岡の新工場
この度、弊社が静岡市清水区に新設した工場は、今後数十年にわたって新しいことをし続けるという意味を込めて「Yamato Mirai Factory Shizuoka」と名付けました。
この工場には大きな特徴が二つあります。
一つはSDGsへの取り組みです。太陽光パネルを設置したり、木材を切ったときに出る端材等をマテリアルリサイクルする仕組みを備えるなど、環境への配慮を意識しました。
また、多様な価値観や個性を尊重し、誰もが活躍できる環境づくりを大切にするインクルーシブを意識しています。そのため、バリアフリーの観点から、段差のない施設づくりに努めるとともに、エレベーターやユニバーサルトイレを設置するなど、環境にも人にも優しい工場を目指しました。
もう一つは、最新機器の導入です。
木材加工には様々な加工機を使用します。数十年前からコンピュータ制御の木工加工機が作られているものの、国内には全ての製造工程の加工機を一手に製造しているメーカーはなく、工場全体をシステム化する際に加工機全部をコンピュータ制御にできるメーカーが存在していませんでした。
そのため、弊社ではドイツ製の加工機と日本で初めての制御システムを日本語化して導入、工場全体を統合的に管理できる仕組みを整えました。

工場新設のきっかけは生産能力の限界と建物の老朽化
工場の新設には、いくつかの要因が関わっています。
まず弊社は、2019年、静岡市の丸子にあった昭和興業株式会社を子会社化しました。そこでは木製実験台などの実験に用いる家具を製造していましたが、2025年度には旧工場の生産能力の限界を超えてしまうことが見込まれました。
また、旧工場では建物や設備の老朽化が進んでおり、生産効率や安全性の向上が求められていました。加えて、工場周辺の住宅地化が進み、騒音への配慮が求められるようになったため、移転を決定しました。
工場移転における三つのハードル
工場を移転するにあたって、大きなハードルが三つありました。
一つ目は、条件を満たす土地探しです。
静岡市内に工場の用地を見つけることが非常に困難でした。移転計画が立った2019年から一年間、約10か所の候補地を検討したのですが、我々が求めている面積や土地単価、交通の便などを考えていくと、すべての条件を満たす土地はわずか一、二ヶ所にまで絞られました。最終的に工場のレイアウト等を検討した結果、現在の土地が最有力候補となりました。
二つ目は、土地の開発許可申請までのプロセスです。
現在の土地は、工場の新設にあたって開発行為の許可申請が必要な土地でした。この申請をするまでに環境アセスメントの問題に始まり、ガスや下水道が未整備で大型の浄化槽の設置が必要になるなど、工場を新設するための条件を整えるために時間がかかりました。また、隣接する県道が工事中だったため、造成工事との調整が難しく、工期が伸びてしまう状況でした。これに関しては、静岡市の方にご協力いただき、なんとか乗り越えることができました。
三つ目は、土地の購入にあたって地域のみなさまのご理解を得ることでした。
この土地はもともと農地で、地権者としては農家の方々が多く、かつ市内外の広い範囲にお住まいでした。例えば、「できれば地元の企業に使ってほしい」との声を一部からいただいていましたが、ヤマト科学の事業内容や進出の目的について丁寧にご説明し、地域の発展に貢献できることをお伝えしながら、何度か話し合いを重ねた結果、ご理解をいただくことができました。
土地取得の過程では、行政やJA、建設会社の方々など、多くの方々のご協力のもと、円滑に取得を進めることができました。
静岡市からのサポート
開発許可を得る過程で、静岡市産業振興課(現 静岡市産業基盤強化本部)のみなさまから多大なご支援をいただきました。
とくに今回は、対象地が市街化調整区域であったため、都市計画法に基づく開発行為の許可が必要でした。市からのサポートを受けながら手続きを進め、開発の許可を取得することができました。
また、対象地に県有地や市有地が含まれていましたが、その部分の取得に関しても、市から丁寧な支援をいただいたおかげで進めることができました。
開発許可を得るまでの過程で、分からないことばかりで結果として時間を要しましたが、一つ一つ市からのサポートを受けることができ、また、市が県との調整役を担っていただいたことで円滑に手続きを進めることができました。
特に、法律が関係する部分については、我々の知識が不足していたこともあり、静岡市からアドバイスをいただき、またその内容が正確であったことで、後戻りすることなく計画を進めることができた点がよかったと思っています。
若い人たちが安心して働ける工場を目指して
「Yamato Mirai Factory Shizuoka」はできたばかりの若い工場です。この工場と一緒に成長していけるような若い力を求めています。
現在、弊社では静岡県中部の高校や専門学校を中心に、企業のPR活動を開始したところです。
実際に訪問すると、「ヤマト科学という名前を初めて聞いた」という生徒さんも少なくありませんでした。ですので、まずは「どのような事業を行っている会社なのか」を広く知ってもらうことが重要だと考えています。
そこで学校の先生方と相談し、工場見学を通して、直接弊社の事業を理解していただけるような機会を準備しています。今後も積極的に学校訪問を行い、求人活動を継続していく予定です。
実際に学校訪問の成果も現れていまして、たとえば直近ですと、静岡デザイン専門学校の卒業展で声をかけた方が入社してくださいました。その方も、今では製造システムの中核を担うまでに成長し、活躍してくれています。
静岡市は、若い方が働いて生活していくのに恵まれた環境で、普段は静岡市で働いて、休日は東京など関東圏や関西圏のどこにでも行けるようなところだと思います。
ヤマト科学としては今後、福利厚生の充実や休暇をしっかり取得できる体制づくりなどを通じて、若い方々が安心して働ける工場を目指していきたいと考えています。
ビジネス環境における「静岡」の魅力
静岡市という土地の良さは交通の便にあると思います。
静岡市は日本の中心に位置し、非常に交通の利便性に恵まれた土地です。とくに弊社の場合、清水庵原インターチェンジの近くに工場を構えたことで、東名・新東名高速道路への直接アクセスが可能となり、東京や大阪への移動もスムーズになりました。
また、弊社は山梨県南アルプス市にも工場がありますが、中部横断自動車道を利用すると静岡市の新工場から約50分で行き来ができるのも、非常に便利なところです。
静岡市の穏やかな気候も魅力の一つです。冬でも雪が降らず、路面の凍結がないため、年間を通じて安定した生産が可能です。
これらの環境が整っていることで、工場の長期的な運営が期待できる土地だと考えています。
サプライズをお届けできる企業へ
ヤマト科学は、今年で創業136年を迎える歴史ある企業です。これまで国内外の多くの研究機関、研究所のみなさまに製品を提供してまいりました。
しかし、私たちはまだ成長過程にあります。研究者のみなさまのニーズに応えることはもちろん、その一歩先を見据え、期待を超える「サプライズ」をお届けできるような付加価値の高い製品づくりを目指していきます。

社員の方に聞いてみました!
静岡市出身で入社された方
Q1. 地元での就職を希望した理由を教えてください。
交通や環境の面でも暮らしやすさを感じていたため、自宅から通勤できるヤマト科学への就職を希望しました。今後も他県へ移住することなく、住み慣れた地元で人生を歩んでいきたいと考えています。
Q2. 静岡市内の学校で学んだスキルが仕事に活きていると感じることはありますか?
ソフトの基礎知識が身についていたため、スムーズに職場に馴染むことができました。とくに、私の得意とする3DCADを用いたモデリングにおいて「頼りになる」と言っていただけたことが嬉しかったです。学んだスキルが役立っている実感が湧き、より一層頑張る意欲が湧きました。